「おーい、起きてますかぁ?」
「はーい、起きてますよぉ。」
「職員室に人が集まるまでまだ時間があるよね。先に家事を始めるといい。クラス担任の教師に電話するのはそのあとで良かろう。」
「はい、了解しました。」
ボクはまず洗濯機を回し始め、洗濯機が回っている間に掃除も始める。これがきのうの夜、車中で大樹さんが教えてくれた段取りだ。
「あなたのクラスは4年何組で、担任の名前は何?」
「4年A組。担任は野沢先生。」
「A組の野沢先生ね。野沢先生が職員室に現れるのは、いつもだいたい何時ごろかな?」
「8時半くらい、だと思う。」
「8時半ね。はい了解。」
……そろそろ8時半だな。掃除を一段落させよう。リビングルームの床はこのまま乾拭きするとして、自分の個室は床を後回しにして窓を拭こう。窓を拭き終えて、雑巾を洗ったらもう 8:25だ。ボクは固定電話の前で待機する。大樹さんがやってきて、学校への電話を始めた。
「おはようございます。私は4年A組の荒川智哉の父親で、大樹と申します。A組担任の野沢先生が御在室でしたらお願いします。……あ、おはようございます。私は荒川智哉の父親で、大樹と申します。…こちらこそご無沙汰してます。智哉のことでお話ししたいことがるので、お時間を少々いただけますか。…はい、実は智哉がもう学校にはいきたくないと言い始めました。智哉と私が話し合った結果、智哉は不登校になると言ってますので、しばらくは学校を休ませようかと思いまして、まずは担任の先生に了承していただきたく、電話を差し上げています。…はい。では本人に替わります。」
「電話を替わりました。荒川智哉です。……父と話し合った結果、条件付きで不登校を許してもらいました。……条件とは、家事を身につけることと、勉強を続けることです。……はい、勉強は続けます。教材や学習方法については父に考えがあるようなので、父の知恵を借りながらどうにかします。…あ、父が話をしたがっているので、電話を父に戻しますね。」
「もしもし、電話を再び替わりました。不登校とはいえ、家庭ではできない勉強もありますから、これからも時々は学校に通うべきだと私は考えています。ですから、今後は『基本的には不登校。ときどき登校』という生活に移行したいのですが、了承してくださいますか。……家庭ではできないこととは、体育や図画工作、友達と対面しての交流などです。詳しくは本人が経験しながら学習していけば良いと考えています。……あ、了承してくださいますか。ありがとうございます。当分は学校を休ませますが、また登校しますので、そのときはまたよろしくお願いします。最後に、本人にもう一度替わりますね。智哉。」
「電話を替わりました。智哉です。そんなわけなんで、次にいつ登校するのかはまだ決めてませんが、いずれは登校しますので、しばらくは時間をください。…ありがとうございます。(大樹に身振りで「電話を切っていいか」と尋ねながら)では、きょうはこれで失礼します。……ふう。電話って疲れる。」
「おいおい、本当にプレゼントはガラケーでいいのかな?」
「野沢先生とボクはそれほど仲良くないから緊張するけど、電話の相手が仲の良い友達なら通話が楽しいの。というわけで、やっぱり電話機が欲しい。今朝、早起きして電話の機種を選んでおいた。この写真に載ってる黒いのが欲しい。値段はどれも似たり寄ったりだから、これでいいよね。」
「3万6千円か。まあ、そのくらいはするだろうね。これの黒だな。キャリアは SB社みたいだな。SBで本当にいいのか?」
「キャリアは遼一と同じにして、SBについていろいろ教えてもらうことにするよ。
「そうか。なら、メモしてさっそくきょう発注するよ。いいかな。」
「はい。お願いします。」
こうしてボクは10歳にしてケータイのオーナーになった。あ、遼一が一足先にケータイを買ってもらってるな。まあいいさ。タブレットはボクが先だ。のちにケータイが届いたとき、ボクが真っ先に電話した相手は、もちろん遼一だ。
「あ、遼一?ボクだよ。智哉。ケータイが届いたんだ。いま通知したのがボクの番号だから、控えておいて。…え?いま料理中?どんな料理つくってんの?」
「炊飯器の使い方から教わってる。明日は味噌汁を作る予定。じゃ、まだ台所仕事が残ってるから、この通話は手短に済ませよう。今後、ゆっくり通話したいときはまず SMSで通話開始時刻を約束してから、タブレットで音声通話、な。こっちもタブレットが届いたら電話するよ。では、またのちほど。」
遼一とタブレットでゆっくり通話。いいねぇ。早く実現して欲しいものだ。まずはSMSで約束しておいて…SMS?なんだそれ?どうやって使うんだ?大樹さんに教えてもらって、初めてのSMSを大樹さんに送った。
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