土曜日だ。大樹さんが休める日だ。お昼を食べながら人形型ペンの話をしよう。でもその前に英語の復習だ。今日はまず自分の声を録音しながら Humpty Dumpty の暗唱に挑もう。

「Humpty Dumpty sat ‿ on ‿ a wo-u. Humpty Dumpty had ‿ a great fo-u. All the king’s howses, and ‿ all the king’s men, couldn’t put Humpty together ‿ again.」

録音終了。では聴いてみる。録音した自分の声を聴くのはイヤなものだ。自分の声じゃないみたいに聞こえる。何年か前に大樹さんにそう言ったら、自分の声は骨伝導で聞こえる部分が大きいから、ほかの人の声とは聞こえ方が違うのだと教えてくれた。それはそうと、暗唱はおおむねできている。ところどころ手本と発音が違うのが気になる。あとで父さんにも聴いてもらおう。

お粥が食べたい。タイマーを使えば勉強しながらでも米を煮ることができる。簡単に塩昆布・卵・乾燥野菜を入れて仕込んでしまおう。米が煮えたら薄い醤油味にしようかな。今日は母さんもいるから1リットルの水で一合の米を煮よう。煮汁が温まるまで Humpty Dumpty の暗唱をまたしてみる。煮汁が温まったらタイマーを30分にセットする。これでお粥作りの第一段落は終了。

洗濯物はまだ溜まってない。床掃除だけやろうか。床掃除をフローリングワイパーでやると、ボクは自分の個室に戻って勉強を始める。

まずは昨日作った漢字の自己テストだ。やってみたら、30問中24問しか正答できなかった。せめて 27問は正解したかったな。国語の教科書を20ページほど読み進めてから漢字自己テストを20問ほど追加する。このテストは明日以降にやる。次は算数。1章進めた。どうということはない。次は理科。2章進んだ。どうということはない。まだお昼まで時間がある。社会の教科書を読もうか。読むだけなので2章進んだ。これできょうボクは主要4教科の全てを進めたことになる。

さて、宇宙海賊のアニメを見よう。やっぱりこの海賊はカッコいいなぁ。例の特殊な銃を仕込んでいるのは左腕か。ここは重要な設定だから、間違えてはいけない。

大樹さんが起きてきたようだからボクは個室から出てキッチンに向かう。

「おはよう。いまお粥を作ってる。米はもう煮えてるはず。きょうの具は塩昆布・卵・乾燥野菜でいいかな。」

「ああ、作りたいように作ってくれ。」

「うん、そうする。ねえ父さん、いま少し時間がある?話したいことがあるんだ。」ボクはひととおりの具材をお粥の鍋に入れると、タイマーを10分に設定した。

「時間ならあるよ。話したいこととは何だい?」

「This is a pen という、誰も使わない英語の例文があるのは知ってるよね。」

「ああ、誰もが知ってる。」

「それを面白く表現するおもちゃを考えたんだ。」

「どんなおもちゃだ?」

「宇宙海賊のアニメは知ってるでしょ?」

「知ってるよ。」

「その主人公の人形を作っておいて、左手には実は特殊な銃が仕込んであり、銃であるはずの部分が実はペンでした、というものなんだ。ここまでは遼一とボクの二人が出したアイティアで、ここから先はボク一人のアイディア。その人形の脚は台座に取り付けて、台座の側面には This is a pen. って書くの。そして本体と腕は脱着できるようにする。」

「面白いシャレだな。」

「面白いでしょ?このアイディアを遼一とボクの二人でおもちゃメーカーに売り込むことも考えたけど、不登校の10歳児からは誰も何も買ってくれないよね。だから、アイディアを冊子にまとめるのは遼一とボクとでやるから、父さんにはプレゼンテーターの代理をお願いしたいんだ。」

「うーん、面白いアイディアだけど、そのアイディアをまとめた冊子の出来によって、引き受けるかどうかを決めよう。」

「では次の話題。暗唱に挑んでみたから、父さんも聴いてみてくれる?」

「もう暗唱に挑んでるのか。」

「たった五行だもの。ただ覚えるだけなら簡単だよ。ところどころボクの発音が手本と違うのが気になるんだ。録音しておいたから聴いてみて。」

そう言ってボクはケータイを大樹さんに渡した。

「……リエゾンはできてるな。発音が手本と違う部分は、まだ教えてないことを含んでいるから、この時点では気にしなくていい。いい調子で英語が上達しているから、このまま続けるといい。」

「そう。話したかったことは以上の2点です。」

「そうか。1日で随分上達したな。」

「まだまだイケるよ。」

「そうか。楽しめよ。」

「頑張れよ」と言わずに「楽しめよ」というところが、うちの親とほかの親との違いだ。ボクは大沢家に生まれて良かった。

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